裾除けの正しい巻き方とずれ防止のコツ|初心者でも美しく着物を着こなすガイド

「裾除けってどうやって巻けばずれないの?毎回着るたびにずれてしまう…」

そんなふうに感じていませんか?

着物を着るうえで欠かせない「裾除け」。

しかし巻き方が曖昧だったり、時間が経つとずれてくることで、美しい着姿が台無しになってしまうとお悩みの方は少なくありません。

特に長時間の外出や動きが多いシーンでは、しっかりと固定されているかどうかが快適さを大きく左右します。

この記事では、裾除けを美しく巻く方法と、ずれを防ぐための具体的なコツを丁寧に解説します。

  • 裾除けがずれる原因と防止テクニック
  • 正しい巻き方のステップと体型補整のポイント
  • 素材や季節による選び方と着心地の違い

さらに、気づきにくいけれど大切な「裾のすぼまり感」や「透け防止」といった見た目や機能面での工夫もご紹介。

誰でも今日から実践できる方法で、より快適で美しい着物ライフをサポートします。

それでは、裾除けの基本から順に見ていきましょう。

裾除けとは?役割と種類を理解する

裾除けは、着物の下に身につける和装用肌着の一種です。

下半身に巻きつけて着用し、汗や皮脂、静電気、汚れなどから着物を守る役割を果たします。

日常のお稽古からフォーマルな場面まで、さまざまなシーンで活躍するアイテムですが、その機能性は意外と知られていません。

裾除けは正しい巻き方や素材選びで、着心地が大きく変わります。

また、巻き方次第で「裾すぼまり」が美しく決まり、見た目の印象にも差が出る重要な要素です。

ここでは、裾除けの主な役割と種類について詳しく見ていきましょう。

裾除けの4つの役割(防汚・すそさばき・補整・防寒)

裾除けには、以下のような役割があります。

  1. 防汚・汗取り:直接肌に触れる部分の汗や皮脂を吸い取り、着物や長襦袢を清潔に保ちます。特に暑い季節には汗ジミの防止に効果的です。
  2. 裾さばきの向上:裾が足にまとわりつくのを防ぎ、滑らかな動きや歩行をサポートします。特に静電気が発生しやすいポリエステル素材の着物では必須の存在です。
  3. 体型補整:布を折り返してタックを取ることで、腰まわりの補整が自然にでき、着物のラインが整います。
  4. 防寒・保温:冬場には保温効果があり、足元の冷え対策にもなります。素材によって防寒性能に差が出るため、季節に合わせて選ぶことが大切です。

このように、裾除けは見た目だけでなく、快適さや着物の持ちを左右する大切な存在です。

4つのタイプとTPO別おすすめ素材

裾除けにはいくつかのタイプがあり、着用シーンや体型、好みによって選ぶことができます。

  1. 腰巻タイプ(定番)
     最も一般的な形で、筒状ではなく1枚の布を腰に巻いて紐で固定するタイプです。タックを取って補整できる点も魅力。素材は綿やさらし、モスリンなどが主流です。
  2. スカートタイプ(ゴム式)
     洋服感覚で履けるスカート型。ゴムや面ファスナーで留めるものもあり、初心者に扱いやすい形式です。ただし細かな補整には不向きな場合もあります。
  3. パンツ型(キュロット)
     裾さばきや冷え対策を重視したい方に人気。足にまとわりつかず、冬の防寒にも適しています。下にもう一枚履いている感覚で安心感も。
  4. ワンピースタイプ(肌着と一体)
     上半身の肌着と一体になっているため、着付けが簡単。急いでいるときや初心者には特に便利です。夏は通気性の良い素材を選ぶと快適に過ごせます。

いずれのタイプも、TPOや季節に応じて適切に使い分けることで、着物をより快適に楽しむことができます。

ずれずに美しく巻く基本ステップ

裾除けはただ巻くだけではなく、布の幅や締め方に工夫を凝らすことで、美しい着姿を保つことができます。

特に重要なのは「裾すぼまり」のシルエットと、動いてもずれにくい安定感です。

裾除けの巻き方を丁寧に整えることで、着物のラインが決まり、足さばきの良さにも直結します。

ここでは腰巻タイプを例に、裾除けをずれにくく巻くための基本ステップをご紹介します。

腰巻タイプの正しい布幅と褄の上げ方

腰巻タイプの裾除けを巻く際、最初に意識したいのが「布の幅とたるみ」の調整です。

まず裾除けを広げ、体の左脇から巻き始めます。

前身頃は体に沿わせるようにしながら、右脇へ持ってきます。

このとき、布の下端が足の甲にかかるかどうか程度の長さにしておくのがポイントです。

長すぎると引きずってしまい、短すぎると肌着が見える原因になります。

次に、余った布を腰骨の少し上あたりでたるませ、そこに「褄(つま)上げ」を作ります。

このタックを取ることで、裾が広がらず、すっきりとすぼまったシルエットになります。

また、このタック部分が自然な体型補整にもなり、着物の裾合わせが美しく整うのです。

最後に、たるみをキープしたまま紐を前で交差し、後ろで蝶結びにして固定します。

結び目は腰のくびれ部分より少し下にすると、動いたときにずれにくくなります。

このように、布の長さとたるみの調整は、裾除けの着崩れ防止と美しい着姿に直結する大切なポイントです。

タックの取り方と紐で体型補整

裾除けを巻く際に、腰まわりのふくらみやくびれを意識した「タック取り」を行うことで、自然な体型補整が可能になります。

まず巻き付けた布の余り部分を腰の横〜後ろ側でつまみ、布を内側に折り返すようにしてタックを入れます。

これにより、布が余らず、腰の丸みにフィットしたラインが生まれます。

1〜2か所に分けてタックを取ると、より滑らかなラインになります。

タックを入れたら、裾除けの上から紐を締めます。

この紐は、体型補整の要ともいえる存在です。ゆるすぎると布が下がり、ずれの原因に。

きつすぎると苦しくなってしまうので、深呼吸をしても苦しくない程度に、しっかりと留めましょう。

締める位置は「腰骨のやや下」が目安です。

高すぎる位置で結ぶと、着崩れの原因になります。

また、体型によってはタオルなどでくびれを埋める補整を加えることで、裾除けがより安定しやすくなります。

これらの工夫を加えることで、裾除けは単なる下着ではなく、着物の土台としての役割を果たしてくれます。

ずれ防止の工夫テクニック

裾除けが時間とともにずれてしまう原因は、巻き方だけではなく、動きやすさ、素材、体型との相性にも関係しています。

どれだけ丁寧に巻いても、立ち座りを繰り返す中で少しずつ緩んでしまうことは珍しくありません。

そこで取り入れたいのが「ずれ防止テクニック」です。

手軽にできる工夫を加えることで、着姿を長時間キープしやすくなります。

キルトピン・安全ピンの活用方法

まず実践しやすいのが「キルトピン」や「安全ピン」を使った固定方法です。

裾除けの布端が重なった部分、特に腰骨あたりにピンを一か所留めておくと、動いてもずれにくくなります。

ピンは体に当たらないよう、外側の布だけをすくって留めるのがポイント。

直接肌に触れる位置やゴロつきやすい場所は避けてください。

また、ピンを使用する場合は「なるべく太めのピン」を選びましょう。

キルトピンは丈夫でしっかり固定できるため、初心者にも扱いやすいアイテムです。

ピンの色は裾除けの色に合わせるか、目立たない色を選ぶと、万一見えても安心です。

ただし、正絹やデリケートな素材の場合は生地に穴が残る可能性もあるため、気になる方は次に紹介する巻き方の工夫も検討してみてください。

前後を半回転巻いてズレ防止

裾除けを巻くときに「前後を一度ひねって巻く」というテクニックも、ずれを防ぐ効果があります。

これは、最初に裾除けを巻く際、前側(体の中心)と後ろ側(腰背部)の布を“半回転”させるようにして巻きつける方法です。

布をひねることで摩擦が生まれ、布同士が滑りにくくなります。

その結果、裾除けがずれにくくなり、動いても安定した状態が保てます。

この「ひねり巻き」は、加藤咲季さんの動画【肌着の着方】でも紹介しています。

実演でわかりやすく解説されているため、巻き方のイメージがつかみにくい方は動画を見ながら試してみるのがおすすめです。

さらに、ひねった状態で固定した上から腰紐を締めることで、ずれにくさがよりアップします。

こうした「小さなひと手間」を加えることで、着崩れに強い裾除けの土台が完成します。

素材別に選ぶヒントと着心地の差

裾除けは肌に直接触れるものだからこそ、素材の選び方は着心地に大きく影響します。

季節や着用シーンに合わせて適した素材を選べば、暑さ寒さの対策だけでなく、静電気や透け対策も可能になります。

ここでは、代表的な素材の特徴と、それぞれの季節における快適な使い方をご紹介します。

自分に合った素材を知ることで、より心地よく、着物時間を楽しめるはずです。

夏向き素材(麻・綿)と涼しさ対策

夏場はとにかく「涼しさ」と「吸湿性」が重要です。

その点でおすすめなのが「麻」や「綿」の素材です。

麻は吸水性と通気性に優れており、汗をすばやく吸って乾かしてくれるため、ベタつきにくく快適です。

特に「近江ちぢみ」や「小千谷縮」といった伝統的な麻素材は、シャリ感があり肌離れがよく、夏の裾除けとして非常に人気があります。

一方、綿素材は肌に優しく、汗をしっかり吸収してくれるため、日常使いに最適です。

ガーゼ素材やさらしタイプなど、肌当たりの柔らかさも特徴です。

ただし、乾きやすさや通気性では麻にやや劣るため、汗っかきの方は麻との重ね使いも検討するとよいでしょう。

また、加藤咲季さんの動画【第五弾「化繊」着物に使われる素材】で紹介されているように、通気性のある機能性ポリエステルも登場しています。

汗を外に逃がす構造で、軽くて乾きやすいものもあり、夏の着物生活を快適にサポートしてくれます。

冬向き素材(ウール・厚地)と防寒性

一方、冬場に気になるのが足元の冷えです。そんなときは「ウール」や「ネル」などの厚地素材の裾除けが効果を発揮します。

ウール素材は保温性が高く、動いても暖かさをしっかりキープしてくれます。

モスリン(羊毛混の綿織物)は軽くて保温性に優れ、昔から冬の定番として親しまれてきました。

特に足元が冷えやすい方にはおすすめです。

さらに、寒さ対策としてもう一枚インナーを重ねる方法もありますが、動きにくくなってしまう場合もあります。

そのため、最初から保温性のある裾除けを選ぶことで、重ね着せずに快適な着付けが可能になります。

なお冬にポリエステル素材を使う場合は、静電気が起きやすいため、静電気防止スプレーの使用がおすすめです。

※参考動画:第五弾「化繊」着物に使われる素材

そもそもずれやすい?よくある失敗と対処法

裾除けを丁寧に巻いたつもりでも、着ているうちに裾が広がってきたり、腰まわりが緩んでしまったりすることは珍しくありません。

とくに初心者の方に多いのが「結び方の緩さ」や「布の重ね方の偏り」によるずれです。

ここでは、裾除けがずれてしまう原因と、その具体的な対処法を紹介します。

「なぜずれるのか」を知ることが、安定した着姿への第一歩です。

紐が緩む→蝶結びの工夫

裾除けのずれの最大の原因のひとつが、結んだ紐がゆるんでしまうことです。

巻いた直後はきちんと締まっていても、歩いたり座ったりを繰り返すうちに、紐が緩んで裾が落ちてきてしまいます。

これを防ぐためには、「蝶結びの方法」に少し工夫を加えるのが効果的です。

蝶結びをしたあと、結び目の端をしっかりと根元に引き込み、結び目の下側を軽く押さえて締め直すと、より固定力が増します。

紐の素材はすべりにくいモスリンや綿がおすすめで、ポリエステル製のつるつるした紐は緩みやすいため注意が必要です。

また、結び位置が高すぎると体の動きで緩みやすくなるため、「腰骨の少し下」で固定するのが理想的なポジションです。

紐が動きにくく、1日中安定感が続きます。

裾が広がる→布幅やタックの調整

もうひとつの失敗パターンが「裾の広がり」です。

裾除けが裾すぼまりにならず、歩くたびにぱたぱた広がってしまう場合、布の巻き幅やタックの取り方に原因があります。

巻く際に、布幅を足首が隠れるギリギリ程度に調整し、余分な布を腰でしっかりタックにしておくことが大切です。

このタックが甘いと、裾がふわっと開いてしまい、全体のシルエットも崩れてしまいます。

また、後ろ側に多めのタックを寄せて、腰まわりをすっきり整えることで、裾が広がるのを防ぐ効果もあります。

どうしても布の余りが出てしまう場合は、紐の下に小さく折り込んで調整するなど、工夫することで美しいラインを保つことができます。

布が足元にまとわりつくと感じるときは、素材による静電気やサイズ感の問題も疑ってみましょう。

滑りやすい素材なら、静電気防止スプレーの併用も効果的です。

まとめ

裾除けは、ただの和装肌着ではなく、美しい着物姿を支える「見えない主役」です。

巻き方ひとつ、素材の選び方ひとつで、快適さも美しさも大きく変わります。

巻き方の基本をおさえ、タックの取り方や紐の締め方に少し工夫を加えることで、裾のずれや広がりを効果的に防ぐことができます。

さらに、ピン留めやひねり巻きといったテクニックを取り入れれば、より安定感が増し、長時間の着用でも着崩れに悩まされることが少なくなります。

素材選びにおいても、季節や用途に応じた工夫が重要です。麻や綿などの通気性に優れた素材は夏に快適に、ウールやモスリンなどの厚地素材は冬の防寒に役立ちます。

機能性ポリエステルを使えば、透けや汗対策にも効果があり、現代の着物生活にフィットした選択が可能になります。

裾除けを正しく巻けるようになると、着物全体の着姿が引き締まり、自信を持って過ごすことができます。

ちょっとしたコツを知るだけで、日常の着物時間がもっと心地よく、楽しいものになりますように。

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監修:加藤咲季
着付師・着付講師。一般社団法人日本スレンダー着付け協会代表理事。美容師から転身し、24歳で教室を開講。のちにオンライン講座に切り替え、累計2000名以上を指導。着姿の悩みをきっかけに「スレンダーに魅せる着付け術」を研究・体系化。現在はオンライン講座やアパレルブランド運営、SNSの発信を通じて着物の魅力を伝えている。YouTube登録者は3.9万人、Instagramフォロワー1.8万人。