「階段で裾を踏みそうで怖い…」
「袖が擦れていないか気になる…」
「足首が見えすぎていないか不安…」
式典や観劇、子どもの行事、会食の予定が近づくと、意外と不安になるのが“階段の移動”ではありませんか。
平地では問題なく歩けても、段差があると急に難しく感じるものです。
周囲の視線や写真撮影も気になりますし、何より転倒だけは避けたいところ。
特に知りたいのは、次の3点ではないでしょうか。
- 階段の上り下りでの正しい裾の持ち方
- 袖(袂)を擦らないための扱い方
- マナーとして恥ずかしくない所作
この記事では、着崩れを防ぎながら美しく見える階段での動きを、具体的な手の位置・高さ・歩幅まで分解して解説します。
ほんの少しの意識で、「慣れている人」に見える階段所作は身につきます。
写真に残しても安心できる姿を、一緒に整えていきましょう。
着物で階段移動が難しく感じる理由

着物での階段移動が怖く感じるのは、裾が長いからではありません。
実は理由はもっと構造的なものです。
着物の作りと歩き方の特徴を理解すると、「なぜ持ち上げる必要があるのか」「なぜ袖が広がるのか」が明確になります。
まずは、不安の正体から整理していきましょう。
着物は“巻きスカート構造”になっている
着物は洋服のスカートのように縫い閉じられているわけではなく、体に巻きつけて重ねる構造になっています。
素材の特徴として、特にポリエステル素材は摩擦が起きやすく、歩行時に生地同士が擦れやすいこともあります。
この点については加藤咲季さんの動画、【第五弾「化繊」着物に使われる素材】でも解説されています。
巻き構造である以上、歩幅を大きく取ると裾が後ろに引っ張られ、立褄が崩れやすくなります。
階段では段差に合わせて足を大きく上げるため、裾を踏むリスクが一気に高まるのです。
つまり、階段では「歩き方を変える」のではなく、「着物に合わせた動き」に調整する必要があります。
袖(袂)が開いている理由と影響
着物の袖は脇が開いている構造です。このため腕を前に出したとき、袂は自然に前へ垂れます。
加藤咲季さんは、動画【肌着の種類】の中で、脇が開いているためキャミソールは避けた方が良いと解説しています。
脇が開いているということは、階段で手すりを持つときにも影響します。
何も意識しないと、袂が前に落ち、段差や手すりに擦れやすくなります。
袖の処理を理解していないと、「裾は持っているのに袖が汚れる」ということが起こります。
階段では裾と袖を同時に管理する意識が必要です。
草履歩行と階段の相性
草履はクッション性や花緒の太さによって歩きやすさが変わります。
加藤咲季さんは、動画【着物の時の履物について語ります】で、初心者向けの草履はクッションが効いていて花緒が太いと解説しています。
しかし草履はかかとが固定されていないため、階段では足をしっかり持ち上げないと抜けやすくなります。
歩幅を小さく保ちつつ、足裏全体で段差を踏むことが重要です。
着物の巻き構造、袖の開き、草履の特性。この3つが重なることで、階段移動は難しく感じるのです。
原因が分かれば、対策はシンプルです。
次は、まず「上り」での正しい裾の持ち方を具体的に解説していきます。
階段を上るときの正しい裾の持ち方

階段の上りは、下りに比べると恐怖心は少ないかもしれません。
しかし実際には、立褄が崩れやすく、写真に残ったときに「慣れていない印象」が出やすい場面でもあります。
段差に合わせて足を大きく上げるため、生地が後ろに引っ張られやすいのです。
上りでは、持ち上げすぎず、しかし踏まない高さを確保する。このバランスが重要になります。
動作は大げさにせず、あくまで自然に見える範囲で整えます。
立褄(たてづま)を持つ位置と高さ
上るときは、右手で上前の立褄を持ちます。
持つ位置は膝よりやや上あたり。あまり高く持ち上げる必要はありません。
目安は足袋のつま先が見えない程度です。
高く持ちすぎると足首が大きく露出し、品のない印象になります。
逆に低すぎると段差に擦れやすくなります。段差一段分だけ余裕をつくるイメージで十分です。
持つときは、生地をわしづかみにせず、親指と人差し指で軽くつまむようにします。
広範囲を握ると立褄が歪み、上がりきった後に戻したときにシワが残りやすくなります。
動作は静かに。
急に持ち上げると袂が揺れます。階段に足をかける直前に、すっと持つ。
それだけで所作は整います。
袂はどう処理する?片手?両手?
基本は片手で立褄を持ちます。
もう一方の手は自然に体の前へ。袂が前に落ちないよう、腕に軽く預ける意識を持ちます。
脇が開いている構造上、手を前に出すと袂は自然に垂れます。何も意識しないと、そのまま段差や手すりに触れてしまいます。
腕の内側に布を乗せるようにすると、揺れが抑えられます。
両手で裾を大きく持つ必要はありません。
両手で持つと上半身が丸まり、写真に写ったときに窮屈な印象になります。
姿勢を保つためにも、片手で十分です。
バッグを持っている場合は、裾を持つ側の手を優先し、バッグは肘に掛けるか反対側へ持ち替えます。
階段では「裾の管理」が最優先です。
手すりを使うときの美しい所作
安全のために手すりを使うことは問題ありません。
むしろ転倒防止のためには推奨されます。
ただし、持ち方に注意が必要です。
裾を持ったまま手すりを掴もうとすると、袂が前へ垂れやすくなります。
その場合は、先に袂を腕に収めてから手すりを持ちます。順番が大切です。
手すりを強く握りしめるのではなく、指先を添えるように持つと、見た目が整います。
身体を手すりに預けるのではなく、あくまで補助として使う。重心は自分の足に置きます。
慌てず、一段ずつ。上りは「小さな歩幅」と「静かな持ち上げ」が基本です。
階段を下りるときのマナーと注意点

下りは上りよりも難易度が高くなります。
裾を踏む危険性が増し、足首も見えやすくなります。さらに、重心が前へ移動するため、帯周りが緩みやすい場面でもあります。
安全を最優先にしながら、美しさも保つ。ここではその両立方法を具体的に解説します。
下りは裾を少し多めに持つ理由
下りでは、上りよりも気持ち高めに裾を持ちます。
理由は、裾が前に落ちやすいからです。
階段を下りるときは、身体がやや前傾になります。
その分、生地が前へ流れやすくなります。
上りと同じ高さでは段差に触れる可能性が高まります。
持ち上げる高さは、足袋の甲が少し隠れる程度。
高く上げすぎると足元が強調されすぎます。
あくまで自然な範囲に収めます。
また、下りでは歩幅をさらに小さくします。
段差の中央に足を置くようにすると安定します。
足を斜めに置かず、まっすぐ下ろします。
足首を見せすぎない歩幅調整
下りは足首が見えやすい動作です。
段差に合わせて足を下ろすとき、裾が遅れて落ちるため、一瞬足が露出します。
これを防ぐためには、歩幅を小さくすること。
大股になると裾の追いつきが遅れます。
着物の歩き方は、もともと小股が基本です。
加藤咲季さんの動画【着物での綺麗じゃない立ち方】でも、気持ち内股で立つことが美しく見えるポイントとされています。
かかとの間に拳一つ分ほどの間隔。
この意識を保ったまま、小さく下ろします。
内股を意識しすぎる必要はありませんが、外に開かないようにします。
草履での重心の置き方
草履はかかとが固定されていません。
下りで急ぐと、前に体重がかかりすぎて不安定になります。
足裏全体で段差を捉え、つま先から落ちないようにします。
足を置いてから体重を移す。
この順番を守るだけで安定します。
加藤咲季さんは、クッション性のある草履は歩きやすいと紹介していますが、それでも階段では慎重に動きましょう。
下りでは焦らないこと。
美しさよりも安全を優先する。その結果として、所作は自然と整います。
袖(袂)を擦らないための扱い方

階段では裾に意識が向きがちですが、実は汚れやすいのは袖です。
特に観劇や式典会場、駅構内など人の出入りが多い場所では、無意識のうちに袂が手すりや壁に触れています。
袖は面積が広く、揺れやすい構造です。
管理せずに動くと、清潔感が一気に崩れます。
ここでは「無理に固定する」のではなく、「自然に収める」方法を解説します。
袂は腕に軽く預ける
袂は持ち上げるものではありません。
腕の内側に軽く預ける感覚で十分です。
脇が開いている構造のため、腕を前に出すと布は前へ落ちます。
そのままにせず、前腕に布を乗せるようにします。強く握る必要はありません。
乗せるだけで揺れは抑えられます。
ポイントは肘の角度です。肘をわずかに曲げると、自然に布が止まります。
腕を完全に伸ばすと袂は下に落ちます。ほんの少しの角度調整が効果的です。
動作は静かに。
布を振り回すような動きは避けます。
揺れを最小限に抑えることで、階段での所作は格段に整います。
バッグを持つ手の位置
バッグの持ち方によって、袖の扱いは大きく変わります。
加藤咲季さんは、動画【着物でのお出かけに必要なものとは?】の中で、ショルダーバッグは襟元が崩れやすいと解説しています。
階段では特に、肩掛けは安定しにくくなります。
可能であればハンドバッグが理想です。
バッグは体の前で低く持たず、やや上に。低い位置にあると袂が下に引かれます。
肘を軽く曲げた位置で持つと、袖が収まりやすくなります。
裾を持つ側とバッグを持つ側を分けると安定します。
両方を同じ手で管理しようとすると動きが大きくなります。優先順位は裾。その次に袖です。
混雑時の袖の守り方
駅や会場では、人との距離が近くなります。
ここで袖を振ると接触が起きやすくなります。
混雑時は、両腕を体の前に軽く寄せます。抱え込む必要はありません。
自然に中心に集めるだけで、袖の広がりは抑えられます。
階段の踊り場では立ち止まらないことも大切です。
立ち止まると後続の人が距離を詰め、袖が触れやすくなります。動線を意識することも所作の一部です。
袖は「守る意識」があるだけで動きが変わります。
特別な技術は不要です。
揺らさない、広げない、この二つを守るだけで十分です。
写真・人目で美しく見える階段所作

階段は、着物姿が最も“差が出る”場所のひとつです。
立ち姿は整っていても、動きの途中で崩れると一気に不慣れな印象になります。
特に式典や観劇、子どもの行事では、会場の入口や神社の石段、ホテルのロビー階段などで写真を撮られる機会が多くあります。
横姿や後ろ姿は、自分では見えません。
だからこそ、意識すべきは「動作中のシルエット」です。
ここでは写真に残ったときに美しく見える具体的なポイントを解説します。
内股気味の足運び
階段で最も目立つのは足の運び方です。
大股で段差を上ると、裾が大きく広がり、立褄が三角に開きます。
写真ではその瞬間が強調され、着物全体が大きく見えます。
加藤咲季さんの動画【着物での綺麗じゃない立ち方】では、着物の基本姿勢として、かかとの間に拳一つ分程度の間隔を保つことが紹介されています。
階段でもこの幅を保ちます。
内股を強調するのではなく、外へ開かない意識が大切です。
足を上げるときは真上に持ち上げるのではなく、前に滑らせるように段差へ置きます。
膝を横に広げないことで裾の広がりを抑えられます。
さらに重要なのは「片足重心にならないこと」です。
片側に体重を乗せると、お腹が前に出て帯周りが崩れやすくなります。
咲季さんも、片足重心は見た目が崩れると解説しています。
階段では、一段ごとに両足が揃う時間をつくります。
急がない。
この間が、上品さを生みます。
肩を落とす姿勢の作り方
写真で最も差が出るのは首元です。
肩が上がっていると、首が短く見え、襟元が浮きます。緊張している印象も与えます。
正しい姿勢は、肩甲骨を軽く引き寄せ、肩を後ろに落とすこと。
加藤咲季さは動画【着物での綺麗じゃない立ち方】の中で、ぐるっと肩を回して、ストンと落とした位置が理想と解説しています。
階段では前傾姿勢になりやすいため、意識的に胸を開きます。
ただし反らないこと。
腰を反らせると帯に負担がかかります。
「胸を襟に軽く預ける」感覚を持つと、自然に姿勢が整います。
襟がパカパカ浮かず、首が長く見えます。
また、裾を持つ際に肩が内側へ入らないよう注意します。
裾を持つときこそ、肩を落とす。
この一点を守るだけで横姿が大きく変わります。
目線と首の角度
階段では無意識に足元ばかり見てしまいます。
しかし顎を引きすぎると、首が縮まり、表情が暗くなります。
視線は一段先へ。
足元を確認するのは視野で十分です。
目線を少し前に置くだけで、背筋が自然に伸びます。
横から撮られたときに美しく見えるのは、首がまっすぐ伸びている状態です。
顎を上げすぎると威圧的に見えます。引きすぎると疲れて見えます。床と平行を意識します。
さらに、階段途中で立ち止まって会話をするときも注意が必要です。
身体だけをひねらず、足元から向きを変えます。上半身だけをねじると裾が乱れます。
目線・首・足元。この三点が揃うと、写真に残る姿は安定します。
階段所作の完成度は、実は「歩き方」よりも「姿勢」で決まります。
動きの途中でも軸がぶれないこと。それが人目に美しく映る条件です。
まとめ
階段での所作は、特別な技術ではありません。
裾は少し持つ。
歩幅は少し小さくする。
袖は腕に預ける。
これだけです。
持ち上げすぎないこと、大股にならないこと、慌てないこと。
着物は構造を理解すると怖くありません。
巻き構造であること、袖が開いていること、草履が固定されていないこと。
この三つを意識すれば、階段は安全に移動できます。
写真に残っても安心できる姿は、派手な動作ではなく、静かな所作から生まれます。
次の着物のお出かけでは、ぜひ一段目から意識してみてください。
階段の所作が整うだけで、全体の印象は大きく変わります。
着付師・着付講師。
一般社団法人日本スレンダー着付け協会代表理事。
美容師から転身し、24歳で教室を開講。
のちにオンライン講座に切り替え、累計2000名以上を指導。
着姿の悩みをきっかけに「スレンダーに魅せる着付け術」を研究・体系化。現在はオンライン講座やアパレルブランド運営、SNSの発信を通じて着物の魅力を伝えている。
YouTube登録者は3.9万人、Instagramフォロワー1.8万人。
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