
「着物をあつらえるには、どこから採寸を始めればいいの?」
そんな疑問を抱えていませんか?
自分の身体にぴったり合う着物を仕立てたいと思っても、最初の一歩である“採寸”に不安を感じる方は多いものです。
特に、ネット注文や自宅採寸となると「測り方が合っているのか」「失敗したらどうしよう」と悩んでしまうのではないでしょうか。
この記事では、
- 何から測ればいいか、基本項目の意味と測り方
- 自宅で採寸する際の正しい手順と便利なコツ
- 万が一サイズが合わなかった場合の対応策
といった、採寸に関する不安や疑問に丁寧にお答えしていきます。
さらに、「フォーマル用とカジュアル用で寸法って違うの?」「ヒップが大きめだけどどうすればいい?」といった、お悩みにも触れていきます。
この記事を読み終える頃には、自分で採寸をすることへの不安がすっかり和らぎ、安心して仕立てやお誂えに臨めるはずです。
採寸の第一歩は「何を測るか」を知ること
着物を仕立てる際の採寸では、測るべき項目が洋服とは少し異なります。
あらかじめその「基準」となる寸法を理解しておくことで、測り方の精度も上がり、オーダーや仕立ての安心感にもつながります。
特に重要なのは、「身丈」「裄丈」「袖丈」「前幅」「後幅」の5つ。
この章ではそのうち、最も大切な2項目「身丈」と「裄丈」について詳しく解説していきます。
身丈とは?:首の後ろ~裾までの測り方とおはしょりの調整幅
身丈(みたけ)は、着物の「縦の長さ」を表す寸法で、首の後ろのグリグリ(頸椎の突起)から、くるぶしや足首あたりまでを測ります。
女性の場合は、基本的に“身長と同じ長さ”を目安にすると良いとされています。
例えば身長160cmの人なら、身丈も160cmが標準。
ただし、「おはしょり」と呼ばれる布の折り返し部分が必要になるため、必ずしもピッタリでなくてもOK。
多少の余裕(±5cm程度)がある場合は、おはしょりで調整可能です。
裄丈とは?:肩を通り首のうしろから手首までの正しい測定方法
裄丈(ゆきたけ)は、「首の後ろから肩を通って手首まで」の長さを測ったもの。
着物では袖の付け根から袖口までの“横の長さ”を決める大切な寸法です。
測るときは、手を自然に下ろした状態で、首のグリグリから肩先を経由し、手首のくるぶしまでを柔らかいメジャーで沿わせるように測ると正確です。
左右の腕の長さに差がある場合は、利き腕で測るのが一般的です。
裄丈は±3cmほどの誤差なら、着付け時にある程度調整可能ですが、それ以上ずれると袖の位置が不自然になってしまいます。
なお、下記の動画では「着方だけで裄を3cm長く見せる方法」も紹介しています。
参考動画:着方だけで裄を長くする方法
自宅で採寸するための具体手順
自宅で採寸をする際に最も大切なのは、「正しい姿勢」と「測定位置の基準」を守ることです。
鏡の前で一人で測る場合と、家族や友人に手伝ってもらう場合とでやりやすさは変わりますが、基本を押さえれば初心者でも十分に正確な採寸が可能です。
この章では、身丈・裄丈・前幅・後幅の4項目の具体的な測り方をご紹介します。
身丈・裄丈の測り方:壁や鏡を使ったセルフ採寸テク
【身丈の測り方】
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背筋を伸ばして真っ直ぐ立ち、首の後ろの「ぐりぐり(第七頸椎)」から、かかとまたは足首までをメジャーで測ります。
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一人で測る場合は、背中側の起点をマスキングテープなどで印をつけておき、壁に背を当てて長さを確認するとスムーズです。
【裄丈の測り方】
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腕を自然に体側に下ろした状態で、首のぐりぐりから肩を通って、手首のぐりぐり(手首関節の突起)までをメジャーで沿わせて測定します。
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このとき、肩先の位置を正しく把握するためには、肩の丸みに沿って測るように意識しましょう。
なお咲季さんの動画では、「着方で裄を3cm長く見せる方法」も解説されています(※)。
採寸で多少短く出ても、着付けの工夫で補える場合もあります。
※参考動画:着方だけで裄を長くする方法
前幅・後幅(身幅)の測定:ヒップから割り出す具体式つき
【前幅・後幅とは】
着物の「胴回り」に関わる寸法で、ヒップに対してどの程度の布幅を割り当てるかがポイントです。
これらは実測値から算出するのが一般的です。
【測り方と計算式】
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ヒップ周りをメジャーで測る(腰骨ではなく最も出っ張った位置)
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「(前幅+後幅)×2+13cm=ヒップサイズ」が目安
例:ヒップ90cm → (前幅+後幅)×2=77 → 前幅+後幅=38.5cm
【補足】
ヒップが大きめの方でも、前幅を広めに設定し、後幅はやや狭めにするなどバランスを取ることで、全体的にスッキリと見せることができます。
サイズが合わなかったときの対応策
着物を誂えたあと、「裄が短い」「おはしょりが出ない」「帯下から紐が見える」といったサイズトラブルに直面することがあります。
けれども安心してください。
多くの場合、着方や補正、小さなお直しで十分に対応可能です。
この章では、許容範囲の目安と、具体的な調整法を紹介します。
許容範囲の目安:「±5cm/±3cm」を超えたらどうする?
【身丈の許容範囲】
±5cm前後であれば、「おはしょり」で十分に調整可能です。
身長160cmであれば、155〜165cmの着物でも美しく着付けることができます。
【裄丈の許容範囲】
裄丈は±3cm程度が目安。
それ以上短いと、袖口から腕が見えてしまい、長すぎると手が隠れて不自然になります。
なお、加藤咲季さんは「着方で裄を3cm伸ばす」方法を動画で丁寧に解説しています(※)。
襟元の抜き加減や襦袢との重ねの位置、襟の折り返し位置を調整することで、見た目の印象は大きく変えられるのです。
※参考動画:着方だけで裄を長くする方法
お直しや仕立て直しの注意点:繰越や背中心・肩線の違いを理解
仕立て直しを依頼する場合は、以下の点を事前に確認しておきましょう。
【繰越の考え方】
繰越(くりこし)とは、首の後ろに抜きを作るための余裕で、通常は1.5〜3cmが標準です。
短すぎると襟が詰まった印象になり、長すぎるとだらしなく見えてしまいます。
【背中心/肩線どちらで直す?】
袖や身頃を直す際、寸法を「背中心から出す」か「肩線から出す」かによって着姿に違いが出ます。
プロに任せる際も、どちらを優先するのかを明確に伝えると、イメージに近づけやすくなります。
【補正の重要性】
着崩れ防止のためには、補正も効果的です。
たとえば、帯の下から紐が見えてしまう場合、咲季さんは「紐を低めに締める」「くびれに補正を入れて帯が落ちないようにする」といった対策を提案しています(※)。
※参考動画:背中の紐が見えてしまうときの対処法
体型・目的に応じた採寸アドバイス
着物は「用途」や「体型」によって、最適な寸法が微妙に変わる衣服です。
フォーマルかカジュアルか、はたまた浴衣や対丈スタイルかによって、身丈や裄丈の出し方に工夫が必要になります。
また、体型にあわせた調整も、快適な着心地と美しい着姿のためには欠かせません。
この章では、シーン別・体型別の採寸ポイントをご紹介します。
フォーマル着物の場合:長め裄丈・身丈の取り方
フォーマル着物は礼装としての役割を果たすため、「上品さ」「端正さ」が重視されます。
そのため、基本的には以下のような採寸が推奨されます。
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裄丈:やや長めに設定。手首の骨が隠れるくらいが理想。
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身丈:身長ぴったり〜+2cm程度。おはしょりをやや長めに取ることで、動いても着崩れにくくなります。
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前幅・後幅:体のラインが出すぎないように、余裕を持たせた設計が基本。
また、正座やお辞儀の動作を想定して、裾が自然に落ちるよう、裾線の傾斜(褄下の長さ)も調整しておくと、美しい立ち姿・座り姿が叶います。
カジュアル・浴衣・対丈の採寸ポイント
一方、カジュアル着物や浴衣では、動きやすさや気軽さが重視されます。
対丈(おはしょりを作らず、身丈を短めに着る方法)も人気が高まっています。
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身丈:対丈の場合は、身長−10〜15cmが目安。おはしょりを省くため、見た目がすっきりします。
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裄丈:少し短めでもOK。手首が少し見えるくらいが涼やかな印象に。
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袖丈:浴衣やカジュアル着物では49cm前後の短め袖も選ばれやすく、より軽快な着姿になります。
加藤咲季さんの動画でも、初心者向けの河川素材(ポリエステル)の浴衣やカジュアル着物を推奨しています(※)。
価格も控えめでお手入れも簡単なので、初めての誂えには最適です。
※参考動画:第五弾「化繊」着物に使われる素材
まとめ
着物の採寸は、最初は難しく感じるかもしれません。
しかし、どこをどう測るのかを理解し、いくつかのポイントを押さえれば、自宅でも十分に正確な寸法を出すことができます。
特に重要なのは「身丈」と「裄丈」の2点。
これらを丁寧に測り、補正やおはしょり、着付けの工夫で補える範囲を知っておけば、多少の誤差も心配いりません。
万が一サイズにズレがあっても、「着方」や「補正」で調整する方法も豊富にあります。
さらに、フォーマル用・カジュアル用・浴衣や対丈といった用途別の採寸ポイントを意識することで、仕立て後の満足度は格段に上がります。
自分の体に合った着物を、自宅で自分の手で採寸してあつらえる。
その経験は、着物ライフをより自由で楽しいものにしてくれるはずです。
ぜひ一度、鏡の前でメジャーを手に取り、最初の一歩を踏み出してみてください。

着付師・着付講師。一般社団法人日本スレンダー着付け協会代表理事。美容師から転身し、24歳で教室を開講。のちにオンライン講座に切り替え、累計2000名以上を指導。着姿の悩みをきっかけに「スレンダーに魅せる着付け術」を研究・体系化。現在はオンライン講座やアパレルブランド運営、SNSの発信を通じて着物の魅力を伝えている。YouTube登録者は3.9万人、Instagramフォロワー1.8万人。